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竹田 歴史講座

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本当にあったちょっと怖いお話です(その1)

                              寄稿者  成澤礼夫


「深夜、誰もない廊下から足音が聞こえてきた」

◇はじめに
 これからお話することは、家族を含めて何人かにはしたことがありますが、文章にするのはこれが初めてです。霊とかいうと、見たことや聞いたことがない人には全く信じられないようです。実は私の家族もこんなことを書くとほかの人に笑われると相手にしてくれません。
 しかし、この出来事は当時小学校5年生だった私にはあまりにもショッキングなことで、その後の私の性格形成に大きな影響を及ぼしたように思います。それほど私にとっては大きな出来事でした。
 いくら科学が進歩したからと言って、今、人類が宇宙創造やすべての物理現象を把握し、理解できているということにはなりません。むしろ、目には見えない世界があると考えた方が合理的です。科学者や医者など、最先端の学問をしている人に神を信じる人が多くいるのです。お盆にはちょっと早いのですが、私の身の回りで起きた本当にあったちょっと怖いお話を始めましょう。

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鶴岡市にある私の生家(鶴岡市下川)

◇忘れもしない5月28日
 私の生まれ育った所は米どころで有名な山形県庄内地方の鶴岡市です。自宅の回りは田圃だらけで、背後にはそれほど高くない山があります。その山を一越えすれば日本海になります。自宅に隣接する場所には、善宝寺という山形県でも一、二を誇る大きな寺の境内が広がっています。その敷地は広大で何百年も経つ杉の木が所狭しと植わっています。毎年5月ともなると、自宅前を流れる川や田圃からカエルが毎晩のようにガァガァと合唱のように聞こえてきました。今はそのお寺の駐車場になってしまい、残念ながらカエルの声は以前ほどには聞こえなくなっているでしょう。

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5月にはカエルの合唱

 私は毎年5月28日になると、小学校5年生の時のあの晩のことを思い出します。あれから47年が過ぎましたが、今、思い出しても身の毛が立ってしまいます。当時、わが家は両親と私の3人暮らしでした。しばらく前に兄は結婚して独立して家を出ていきました。どうゆう訳か、その晩、父と私は兄夫婦が家を出てからは普段使用しない2階に寝ることになりました。父が「今晩は2階で寝るぞ」と言い出したからです。母はいつものように1階で寝ることになりました。布団を2組敷いて、夜の10時頃には布団に入ったと思います。私は父と並んで寝ました。部屋の電気を消して間もなく、ビールを飲んだ父はクウクウと寝息を立て始めました。父はアルコールが弱く、コップにビールを2杯も飲めばすぐに酔ってしまうのです。

◇廊下から突然足音が
 私はいつもと違う部屋に寝たこともあってなかなか寝付けませんでした。布団に入って、30分か、1時間ほどが経った時の事です。布団からガラスの障子を挟んで2~3メートル離れている廊下から人が歩く音がしてきました。「ミシッ、ミシッ、ミシッ」という、今まで聞いたことがないとても重い足音です。その足音は6、7メートルほどの長さの廊下を二度、三度ゆっくりと往復しました。母は下で寝ているはずだし、父は私の隣で寝ています。誰も廊下を歩く人などいないはずなのです。
 恐怖を感じた初めての体験で、私は体が硬直してしまい身動きができませんでした。息が苦しくなり、心臓もどきどきして、金縛りに遭うとはまさにこのようなことです。「ミシッ、ミシッ、ミシッ」という足音は重量感から、男の人の足音のように感じました。そして、ゆっくり、ゆっくり、歩きました。ガラスの障子ですから、頭を上げて見れば廊下に何か動くものを見ることができたかもしれません。でも、とてもそんな余裕はありませんでした。

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お化けってこんな恰好?

 暫くすると、その足音は階段を降り始めました。「トン、トン、トン」と、今度は非常に軽い音です。猫が跳びはねているような音でした。人が階段を降りるにしてはあまりに軽い音です。そして10数段ある階段の途中でその足音は突然、消えてしまいました。後は何も聞こえません。廊下を歩く音が聞こえてから、階段の途中で消えるまで、どれほどの時間が経過したのかまるで分かりません。私は震える体を覚えながら、じっとしているしかありませんでした。いつ、どうやって寝入ったか覚えていませんが、気が付いたら朝になっていました。

◇あれは兄だったのか
 朝、私は早速昨晩のことを両親に話しました。母は1階に寝ていて全然聞こえなかったと言います。もちろん、父も何も知らないと話しました。この足音が聞こえたことを証明してくれる人は誰もいないのです。
 この一件があってからというもの、中学校に入学するまでの2年間、一人では決して2階で寝ることができませんでした。学校からの帰り道、夜遅くなったときは、怖くてお寺の方を見ないで家まで帰りました。私が霊と呼べるものと遭遇したのは、後にも先にもこの1回だけです。
 後で考えると、あの足音は私の兄だったのではないかと思っています。というのも、当時、兄は独立するに際して両親とトラブルがあり、円満に家を出て行ったのではなかったからです。きっと自宅が懐かしく、あるいは心配して魂だけが自宅に帰ってきたのではないかと私は今でも思っています。
 そのことがあって以来、私は目に見えない世界があることを確信しました。人間の命の不思議さ、霊に関心を持ち始めました。何かの用があってお寺に行くと、和尚さんに私が聞いたような足音を聞いたことがあるか、と尋ねるようになりました。私が宗教的なことに小さいときから関心があるのはこの怖い体験が背景にあります。あなたはこのような体験がありますか。そして、私のこの体験を信じますか。
(平成16年5月23日「米沢日報紙」掲載のものを加筆修正)

(2016年5月21日19:45配信)